長い休みが近づくと無性に何か生活に変化が欲しいと感じてくる。毎日仕事をして過ごしている分には、そんな衝動に駆られることはあまりないのだが、休みが目前に迫ってくると、せっかくだから何かせねばという気がして、いてもたってもいられなくなる。今年のゴールデンウィークもいつもの病気にかかり、日常を忘れるような体験をし、頭が真っ白になって人格が変わるのではないか?、というくらいの強烈な刺激を求め、理想郷を探していた。
その趣旨に近い理想郷を考えると、ありきたりではあるがとびきり綺麗なビーチリゾートが頭に浮かぶ。キラキラ光る海と真っ白な砂浜。いかにも頭が真っ白になりそうな感じである。しかしながら時は大型連休。同じ事を考える人も当然多いだろう。人であふれる場所はなるべく避けたい。というわけで、ちょっとひねってタイのシミラン諸島へ行くことにした。ここぞ、非日常の体験ができる理想の場所であると信じて。
タイとインドの間に位置するアンダマン海に浮かぶ9つの小さな島々。これがタイ国立公園のシミラン諸島(Similan Archipelago)である。孤島であるシミラン諸島は海の透明度と美しさより名高い。しかし、天候の関係からシミラン諸島へのツアーは11月から5月上旬の乾期のみに限られる。実は去年の夏に行こうと思ったのだが、雨期のど真ん中にあたり、やむなく断念していたのだ。
地図内の島々がシミラン諸島。上のピンで示される一番大きな島をシミラン島と呼ぶ。 |
今回シミラン諸島へ行ったのは5月の第1週。4月下旬(相変わらずぎりぎりであるが)に日本より現地ツアー会社へ申し込んだところ、天気が徐々に雨がちになってきてはいるが、かろうじてまだシーズン内であり、船も出るだろうということであった。特に旅行では余裕を持った計画を立てるのが常識であるが、何故かこういった「ぎりぎり」感があるとワクワクするのは私だけであろうか。リスクが大きく、計画が実行できなくなることも予想され、出来れば避けるべき事ではあるが、結局そうも言っていられない事が多いのだが。
まずは何はともあれタイはバンコクへ移動。ここで買い物をしたり会社の同僚に会ったりして数日過ごす。その後、バンコクよりプーケット国際空港へ移動。そしてツアー会社の用意した送迎車にて1時間ちょっとかけてカオラック(Khaolak)へ移動。カオラックのツアー会社のゲストハウスにて1泊した。
カオラック(Khaolak)とシミラン諸島(Similan Island)の位置関係。まずはバンコク→プーケット→カオラックと移動。 |
ところでカオラックのこのゲストハウス、なかなか素敵であった。ゲストハウスと聞くと、正直なところ、あまり清潔感や快適性に重きを置いている部類の宿泊場所ではないという認識を持ってしまう。ところがこのゲストハウスは、家具類、エアコンにファン、冷蔵庫、床、水回りにいたるまで全てに手入れが行き届いており、清潔感あふれていた。当初実は「ゲストハウス」という名称が少し気になって、カオラックで別にホテルをとろうとしていたのだが、シミラン諸島へ行くついでに泊まるだけなのでお手頃価格のゲストハウスと決めたのだが、正解であった。
左の真っ青な建物がゲストハウス。派手だが、これが意外と悪くない色なのである。若い日本人の女性が管理人さん。 |
夜は外の街頭の明かりが差し込んで室内はこうなる。 |
今回はシミラン諸島への中継地としてカオラックに滞在しただけであったが、カオラックはリゾートとして特にヨーロッパ人を中心に有名な場所らしい。また、2004年に発生したスマトラ島沖地震では大きな被害を受けた地域で、バンコクでタイ人に「カオラックへ行く」と話すと、「あの津波の?」とたいていかえって来るほど、津波の被害による印象が大きいようだ。
至る所に津波危険区域の看板が。 |
カオラックのビーチ。この1週間後くらいにサイクロンが発生し、ビーチ近辺は相当荒れた模様。乾期の終わりではなく、できれば余裕を持って訪れたい。 |
カオラックにつくやいなや、何はともあれサンダルを調達しに行った。サンダルなしでは何も出来ない。そこで選んだのがクロックス。流行っている物は好まない、デザインもあまり好きではないということで今まで避けていたのだが、海での安全性を考えるとこれに勝る物なしと考えたからだ。とはいえ、砂が入り込むとやっかいなのはあきらめるしかない。 |
翌朝7時半。ピックアップトラック(ソンテウ?)が迎えに来る。途中、数カ所ホテルへよって顧客を乗せ、パンガー県(Phang Nga)のタプラム港(Tab Lamu pier)へ。
6人ほどのヨーロッパ人と乗り会う。 |
タプラム港はカオラックから1時間ほどの所にあり、シミラン諸島へ行くスピードボートが沢山でている。港につくと、既にツアー客がちらほら集まっており、用意されたコーヒーや菓子を食べてくつろいでいた。
出航までの間こんなところで待つ。酔い止めも配られるのだが、何となくよく分からん外国の薬を飲みなくなかったので手にしなかった。 |
乗船前に、自分のサイズにあった、フィン、マスク、シュノーケルを選んで持って行くシステムになっている。ツアー中は各自それを持ち運び、最後ここに戻ってきたら返却するのである。 |
客がそろうと、ツアー会社から挨拶、諸注意の説明が英語、タイ語で全体に行われ、その後グループ分けされて15-20人程度に分かれてスピードボートに乗船という運びになる。シミラン諸島へはスピードボートで1時間半ほどかかるのだが、船内で如何に快適に過ごせるかは、この乗船の瞬間にかかっていると言っても過言ではない。確保する席の場所が問題となるのだ。ボートの先頭は見晴らしは良いが屋根がない上に波の影響で大きく揺れる。後方は安定しているが、シュノーケリングの際の人の出入りでびしょびしょになりがち。かくして真ん中の席を取ることが重要となる。自分のグループが乗船する船へ案内する人が動き出したら、先頭を切ってその人について行き、さっさと乗り込んでしまおう。
スピードボート後部。このくらいの人口密度となる。救命胴衣は船内で配られ、シュノーケリングの際にも好みで使用する。ツアーの参加者はタイ人半分・欧米人半分といったところだ。ちなみに昨日プーケットの空港を出てからは、ゲストハウスの管理人さん以外に日本人を見ていない(結局空港に戻るまで、他に日本人の家族ずれを1度見ただけであった)。 |
シミラン諸島につくまでは、色の濃いとても深そうな海がひたすら続くだけで、特に何もない。ヤマハのエンジンの甲高い音が終始鳴り響き、規則性のない揺れが続く。日差しは直に当たらないがほんの少しだけ暑い。湿気を帯びた海の風を受け続け、体中がベトつく感じがする。1時間半何も変化がなく、特に何が楽しいわけではないが、この状況もすでに十分楽しむべき非日常のハズなのである。ふとそのことに気が付き、船外を見渡したり、設備を確認したり、乗客をじろじろみたりして、非日常を堪能しようとしていたのだが、出発後程なくしてイヤな予感が。「これは間違いなく酔う」。規則性のない揺れのせいだろうか、緩やかではあるがどちらかというと気分が下降気味であることを悟ったので、早速寝ることとした。乗り物酔い予防の処置として、私は昔から寝て誤魔化すことをしているのだ。時折、バシャーンと大きな波に当たり大きく船体が揺れたりして、寝るには最適な環境というワケではないが、それでも目をつぶって半分くらいは寝ているかのように自分を誤魔化すことが大切なのである。結局、船上での非日常の堪能は、半分寝ながら物思いにふけることくらいしかできなかったのである。とはいえ、それでも非日常であることには変わりない。良い事だけを選ぶことなどできないので仕方ない。
なにやら周りが騒がしくなりはじめたので目をさました。岸壁に大きな岩がごろごろしている島が遠巻きに見える。シミランNo.8島についたのだ。目をつぶって無の境地にいると、時間の感覚があまりなくなるのだが、予定通り1時間半程度であった。このシミランNo.8島こそがシミラン島と呼ばれ、諸島の中でも最も大きな島なのである。
シミラン島のシンボルSailing Rock。 |
ようやく揺れのない地面に足をつけると思いきや、波が高いため上陸はできなかった。素人目ではあまり波が高いという感じはなかったのだが、島には特に波止場があるわけでもなく、船をビーチにつけて、揺れる船を飛び降り、びしょびしょになりながら陸に上がるしかないので、そういうものなのだろう。
その後はシミランNo.8、No.7島近辺にて30分x2回のシュノーケリング。海は透き通っていて、色鮮やかな魚が、白い海底を背景にして群れをなす。確かに綺麗なのだが、時間を忘れるほどのめり込むほどの物でもない。30分は妥当な時間であると感じた。私は海へ潜ることにあまり執着心がないので、きっとその良さや違いがあまりわからない達なのだろう。もちろんこの場所の自然の美しさや貴重さの価値を否定する気はない。ただ、海は外から見たいというのが正直な感想だ。
私はマリンスポーツはほとんどしないし、海へ行くこともあまりない。毎度の事ながら「ああ、海って思ったよりもしょっぱいな」と海水の当たり前の味を再認識するのであった。もちろん海水は塩辛く、後味も悪い。喉もいがらっぽくなり、いいことなしなのであるが、それでも海の存在を五感で実感できるこの瞬間が嬉しかったりするのだ。視覚や聴覚よりも、嗅覚や味覚、触覚という、現代においても再現が比較的難しいとされる感覚は、普段擬似的な存在に触れる機会も多くないので、より心に訴えかける力、記憶に残す力がある。海の感触だけでなく、川の水の味、においなどもそう言った感覚をおぼえることが良くある。思い出に残るのだ。
ちょうど昼頃にシミランNo.4島(別名Ko Meang)へ上陸した。太陽の位置のせいか、海の深さのせいか、先ほどのシュノーケリングをした場所の深い海の色とはかなり違う。脳を直接刺激するような圧倒的に鮮やかな色であり、幻想的なパステルカラーでもある。これぞまさに思い描いていた光景だ。
シミランNo.4島のビーチ「Had Nha」。キラキラ光る海と真っ白な粉雪のような砂浜。これである。 |
上陸の様子。写真は他の船ではあるが、私の乗った船もこのくらいの大きさであった。 |
シミランNo.4島には、シミラン諸島内唯一の宿泊施設やレストランなどがある。とはいえ島自体の大きさはシミランNo.8島よりもかなり小さい。島の反対側まで10-15分程度歩けばついてしまう距離だ。ツアー客は皆このシミランNo.4島に皆立ち寄るようで、先についた我々がレストランで食事をし始めると、続々と客がやってきた。
シミランNo.4島。上のビーチ「Had Nha」より上陸。レストランは目の前。 |
レストランではツアー客にはあらかじめ用意されたセットの食事(グループでシェア)が出される。一般的なタイ料理だ。 ちなみにファラン(タイ語で欧米人・白人の意)は概して男女問わずどこでも露出度が高めだ。 |
このレストラン、見ての通り壁もなければ窓もない。かやぶき屋根?の天井に煉瓦の床なのである。島らしく開放的で良いのだが、やはりそれはそれで不便な点も多分にある。まずは当然ながらエアコンはない。日陰なのでましではあるが、日中は何もしていなくともかなり汗ばむ。また、ほぼ屋外での食事につき、気を抜くとハエがこれから手を付けようと思っていたおいしそうな料理にとまるのだ。コップの飲み口にも容赦なくとまる。出された食事は素早く自分の取り皿にとり、自分の守備範囲とするのが快適に食事をするコツだ。とはいえ、それ以外のハエがとまった料理は気になってしまい、もうおかわりをしたくなくなってしまうのだが。ハエの動きを常時監視し、とまった箇所だけ器用に避ける、もしくはハエなどは見なかったことにするのも手だ。今回私の場合は、ハエの動きを常時監視し、とまった箇所だけ器用に避けようと思いきや、あまり気にしすぎてもなぁ、と見なかったことにして食べてしまおうとして迷った末、なんだかどうでもよくなってきて取ることはしなかった。一番中途半端でちょっと煮え切らない思いがしたが、武士は食わねど高楊枝、腹八分目に病気なし、などと自分に言い聞かせるのであった。夕食時には少なくなるのだが、特に日中はこのようにハエが多く、「五月蠅い」と、思わず漢字の意図に感心せざるを得ないのだが、蚊もまたたまらないのだ。日中はまだ蚊に関してはまだましとはいえ、どうしてまわりのタイ人は刺されず、私にだけ総攻撃を仕掛けてくるのだろうか? しばらくして露出度の高い外人ツアー客が増えてきて、しめしめと思った。やはり蚊の標的が分散したせいか、随分刺されなくなってきた。あとは、常に足がぬれた状態にある、というのも気になる人もいるだろう。もちろんビーチに行けば足は砂だらけになる。ビーチから島の中に入ったり、建物に入る時には、砂落とし用の水道があるので洗い流す。すると足はほとんどぬれっぱなしだし、ビーチへ行かなくとも、どこからともなくぬれた足に砂がまとわりついてくる。もちろんこれまたどうしようもない事だ。
小さな島ではこれが現実なのだ。つまりこんな島では当然のごとく、辛いタイ料理でさらに暑くなり汗だくになっても、蚊と認識できないくらい大きい蚊に刺されても、異国のハエが料理にたかろうとも、ぬれている砂っぽい床に素足であがろうとも、あんまり気にしてはいけないのだ。気にすれば気にするほど楽しくなくなっていくのだろう。私は普段この手の事に比較的神経質なのだが、一度日常を離れると、幸い気にしなくなる方である。
昼食の後はこの島でしばらく遊び、スピードボートに乗って帰って行くのが一般的な日帰りツアーのようだ。私は事前にツアー会社を通してバンガローを予約していたのでここで鍵を渡される。シーズン中は常に予約でいっぱいだと聞いていたので予約できるかやきもきしていたのだが、シーズンの終わりのせいか、いとも簡単に予約ができたのであった。実際に宿泊客は非常に少なく、カップル1組、子供ずれ家族1組、女友だち2人組、一眼レフカメラ携えた男性くらいなものであった。全員タイ人である。後は長期滞在しているようなファランのおじさん2人を見かけた。余計なことだが、孤島で起きるミステリー小説でも書けそうなメンバーである。
レストランから5分くらい高台に登ったところに予約したバンガロー「Seaview Bungalow」はあった。
斜面に高床式のバンガローが連なる。2004年に初めてシミラン諸島にバンガローが出来たそうで、外装は比較的綺麗だ。 |
部屋の中の電源ブレーカーには注意書きが。「電気は夜6時から朝6時まで使用できます」。日中は部屋の中は蒸して暑いので、部屋にいることはお勧めできない。 |
宿泊したバンガローはその名も「Seaview Bungalow」。バルコニーから海がどれだけ見えるかに関しての話は避けるが、動植物は豊かな場所である。 |
いつものことだが、たいていホテルの部屋というものは写真に撮ると綺麗に見えるのだ。現に内装は基本的にどこのホテルも綺麗なのである。ただし、本当に清潔であるかどうかは写真に写らない(そもそもそんなところをクローズアップして撮ろうとも思わないが)。その点、このバンガローは比較的清潔である部類に入ると私は感じた。とはいえ、施設的な面から言うと、特別不便はしなかったが幾分気が付いた点もある。シャワーの給湯器が壊れていて水しか出なかったのだが、水シャワーが平気な人であれば問題ないだろう。むしろこの気候の中お湯シャワーを浴びると、その後汗だくになること請け合いだ。ただし水圧はご多分に漏れず低いのでシャンプーに時間がかかったりする。また、洗面所に一歩足を踏み入れれば必ず足が濡れるのである。トイレの水を流すたびに水が噴水のように外に吹き出る有様だ。当然便座も床もそのたびに濡れてしまう。その水は上水道のまだ綺麗な水であると信じて疑わないことにした。この手のバンガローなどの作りとして仕方ないのであるが、歩けば床がきしんだり、網戸とサッシの間に隙間が見られた。とはいえ、蚊やその他の飛ぶ虫は思ったほど入ってこない(玄関口には蚊がうようよしているというのに、どういわけかバルコニーにはあまり蚊がいないのだ)。蟻などの這う虫も床に見あたらなかったので素足で踏みつぶす心配はないのだが、そのかわりだんだんと床が砂っぽくなってくるのだ。足だけでなく、服や鞄に細かい砂がまとわりついてくるせいだろう。そうなると、夜のシャワー後であろうが寝る前には足が砂っぽくなっていたりする。だがそんなことなど気にしてはいられない。
バンガロー以外の場所にとまりたい場合には、テントという選択肢もある。レストランやビーチに割と近い低い場所に設置されている。テントの中をのぞくことはなかったので詳細は不明だが、雨が降るとろくな事にならないと思うので、よほどのことがない限りはシーズンの真っ最中以外は避けた方がよいだろう。ちなみに、テントの近くにはトイレとシャワーがあるので、テント宿泊時のみならず、バンガローをチェックアウトした後や、日替えツアーでも利用できて便利だ。
バンガローではなくテントを予約して宿泊することも出来るが、あえて選ぶ物でもない。 |
テントのすぐそばのこの建物にトイレとシャワーがある。もちろんお湯は出ない。シャワーは特に個室に別れているわけではないので、服はある程度着た状態で浴びるといった感じになるだろう。 |
バンガローへ荷物を置きに行った後、島内を散策する。まずは島に上陸したビーチとは反対側にあるもう一つのビーチへ出かけた。反対側とはいえ草むらを10分程度歩けばすぐにつく。島自体がこの程度の大きさなのだ。ここは先ほどのビーチのように広くはなく、ひっそりとした印象を受けるが、海は同様に輝いている。ここでは昼下がりになると、波打ち際の木々が自身の影と木漏れ日を海面に映し出し、淡くやわらかな色合いを作りだす。ドリームカラーというか、色つきの夢を見ているようだ。
島内の小さい方のビーチ「Had Lek」。特にビーチでブランコをする必要はないと思うが、そこに存在する価値を見いだせるような光景である。 |
午後3時くらいに日帰りツアーの団体がシミラン島を離れるのであるが、するととたんに島全体が静かになり、ビーチですら人をあまりみなくなる。人が少ないことになれないせいか、「人をこのビーチで見かけないのだが、ここは今いて良い場所なのだろうか?」と気がかりになってくる。しかも徐々に潮も満ちてきていて、余計に不安になるのだ。そうなると「例えばここで離岸流に飲まれて沖に流されても、しばらく誰も気が付かないだろうな…」などと、ついぞ想像するようになる。ビーチを離れて人のいそうなレストラン付近に戻っていった。レストラン近辺でも、島のスタッフを数人見かけたくらいであった。それでも人を見かけたので安心感がある。しかしながら、日帰りツアー客はともかく、他の宿泊者はいったいどこで何をしているんだろうか。
レストラン側の「Visitor Center」なる小屋をのぞいてみると、熱帯魚、海亀、珊瑚等、島の生態系を紹介するポスターが多数掲示されていた。さながら小博物館といったところである。タイ語だけでなく、たまに英語で解説がしてあるのだが、あまりじっくりとそれらポスターに見入る気分でもなかったので、ぐるりと軽く一周するにとどまった。
Visitor Center。実は中に無料のロッカーがあったりする。バンガローのチェックアウト(10時)後に利用すると便利。 |
この島では時間がゆっくりと流れる。夕食は例のレストランに6時に集合ということになっているのだが、まだまだ時間がある。博物館もほんの数分で終わってしまった。案内板によると、他の見所としては「View Point」や「Sunset」などがある。実は例のビーチへ行く途中に分かれ道がありView Pointへの道を見たのだが、暑い中、草木の生い茂った坂道を登らなくてはならなかったので、迷った末にあきらめたのである。Sunsetについては夕方行こうとしたら、「あまり足場が良くないのでお勧めしない」とスタッフに言われ、行った客によると「倒れた木が道をふさいでいて行けなかった」との事で、結局ここにも行かなかった。
何かして遊ばないともったいないとも思ったが特に積極的にすることもなかったので、気の赴くまましたいことをするのも良いだろうと、水シャワーを浴びて夕食まで昼寝をするのであった。どういう訳か他の宿泊者を見かけないのは、こういう理由なのかもしれない。
自宅で昼寝でもすれば目覚めの気分は最悪なのであるが(そもそも起きられるかどうかも怪しいのだが)、ここでは気分が高揚しているのだろうか、昼寝をしても意外とすっきりと目覚める物である。バンガローからビーチに下りてみると、空は薄暗くなっていて、海の色が、空の色と共に変わっていた。この光景もまた美しい。
時間と共に色合いが変わるので、気になって何度も海の様子を見に行ってしまう。ちなみにシミラン諸島にはバナナボートなどのレジャーは特にない。海で泳いだり、ビーチで寝そべったり、写真を撮ったり、たそがれたりするのである。 |
昼食は6時半くらいから始まったのだが、人がひしめき合ってた昼間とはうってかわって、夜は人が激減する。何せ宿泊客が10数人しかいないのだ。流石に夜になるとハエは姿を消すのだが、蚊には昼間よりももっと悩まされることになる。最終的に何十カ所刺されたのかわからない。8くらいまでは数えていたのだが、面倒になって途中で数えるのをやめた。何せ虫除けスプレーをしたにもかかわらずその直後に刺されるのだ。刺されては虫除けスプレー、刺されては虫除けスプレーと、4回くらいこれを繰り返してようやく蚊の勢いがなくなるといった具合だ。また、今度ばかりはほぼタイ人しかいないので、私が蚊に刺される確率が高い気がしてならない。
夕食直前の写真。左奥の机に人数分の皿が用意されている。その他数名いる程度。 |
夕食が終わって一段落すると、スタッフが島に生息するPoo Kai (直訳すると蟹ニワトリ)という蟹を見に連れて行ってくれる。名前の由来は、蟹のハサミから出る音がニワトリの鳴き声に似ているから、との事だが、聞く機会はなかった。
蟹を見に懐中電灯を片手に皆で島の中に入っていく。カブトムシを見に行くような感覚に近い。 |
Poo Kai。結構いるのですぐに見つかる(見つけてくれる)。 |
レストランに戻ると、島のスタッフや宿泊者はタイのテレビドラマを見始める。長期滞在していると思われるファラン達も、タイ語のドラマの内容を理解しているかどうかはわからないが、ビール片手になんとなく見ている。当然私は内容を全く理解していないのだが、何となく見ていた。夜ともなると暑さも和らぎ、さらに、虫除けを重ねがけしたおかげか蚊も多少なりともましになってきたためか、だんだんとこの場が快適に感じてきたからだ。ドラマはどうでもよいのだが、特に何をするともなく、ただ物思いにふけって、まだここにいたいと思うようになる。今ここは素晴らしく快適な環境である言えないが、それでも、物理的な快適さを思わず忘れて、そんな気持ちになってくる。そう思える時こそ、そこに来て良かったと実感する。この感覚を日々気軽に体験したい物であるが、残念ながら私の心に余裕がないせいか、こういった瞬間はなかなか訪れないのである。
バンガローに戻り、シミラン諸島での1日がすぎていく。部屋の電気を消すと視覚的な情報が遮断され聴覚に気がいくため、それまであまり気にしていなかった繰り返す波の音の心地よさに気が付く。また、波の音に混じり様々な動物の鳴き声が聞こえてくる。たまにその鳴き声があまりに近くから聞こえ、もしやバスルームにいるのでは?と一瞬驚くことも。
朝8時半に、いつものレストランにて朝食。トーストや目玉焼きなどのよくあるコンチネンタルスタイルのセットだ。その後の予定は特に事前には聞いていなかったのだが、希望する人はシュノーケリングに連れて行ってくれるとのことであった。シュノーケリングがしたいわけではないがいろいろと見ておきたいので参加したのだが、「水に濡れるのでカメラ等は持って行かない方がよい」という忠告があった。こういう場合にどうするか?毎回非常に迷うのである。こういった類の忠告は、実際には「念のため」のような意味合いが多いので、「船の乗り降りさえ気をつければどうにかなるかもしれない」とも思ったのだが、本当にカメラを海水に濡らしてしまってはシャレにならない。断腸の思いでカメラはロッカーに置いていく事とした。せめてGPSは、と諦めきれず、GPSをオンにし、コンビニ袋で密閉してハーフパンツのポケットに忍ばせた。
さて出発するぞ、ということで、サンダルを脱いで準備したところでこれから乗るボートを初めて目にしたわけだが、カメラは持ってこなくて本当に良かったと実感するのである。船はいたってシンプルで、船の縁と地べたしかなく、何か置くとすれば地べたであるが、置けば濡れるだけである。ムリをすればカメラの持ち込みもできそうであるが、かなり面倒であることは間違いない。さらに、ボートに乗り込む際にいきなり腰近くまで濡れた。首から一眼レフカメラを下げてなくて良かった…。
この型のボートにてシュノーケリングのポイントへ移動。Tシャツと日焼け止めは必須だ。 |
ボートでちょっと沖合に出たところでシュノーケリングをしたのだが、水中にて何やら背筋に寒さを感じるような感覚があったので早々に船上にあがった。風邪でも引いたのかな?と思ったので、次のシュノーケリングのポイントに着いても潜ることはしなかったのだが、そうこうしているうちに気分が悪くなり、「これは風邪ではないく船酔いだ」と理解した。考えもしなかったのだが、シュノーケリングをしている最中に船酔いしたようだ。
いつも通り船酔いを誤魔化すために寝ようとしたのだが、寝るにはかなり条件が悪い。じりじりと日差しが照りつけ、頭も足も暑い。楽な安定した姿勢になろうと、船縁から移動して船底に座り込むと、船の振動がもろに伝わり気持ち悪い。不安定な船縁に座った方が、まだマシであった。邪魔になるカメラを持ってこなくて良かった、と再度実感した瞬間であった。「万一の際には、今シュノーケリングしている人たちに迷惑にならない方向を選ぼう。しかしながら、今彼らがあげているパンとどっちの方が魚がよってくるか気になるな。液体の方が早く広がるので群がる気もするな?いや、そもそも酸の強いアレを好んで食すると思えんな。いやいや、その事を考えるとよけいに気持ち悪くなる。聖火リレーのことでも考えてみよう」等々、寝る努力をしつつも、酔いを必死でごまかそうとしていた。そのおかげか、幸いぎりぎりのところで踏ん張り、島に無事戻ることが出来た。
昼食までまだ時間があったのでビーチ付近をうろうろと。午前中は日帰りツアーの客がまだ島についていないのでビーチは静かだ。落ち着いて写真を撮るには良い時間だろう。 |
そして昨日と同じように日帰りツアーの客と一緒にレストランで昼食を食べ、午後3時前くらいに小さい方のビーチからスピードボートに乗って帰っていくのであった。もちろん今度は酔い止めの薬はもらって。
スピードボートでは果物やらペプシやらが配られる。とはいえ、特に帰りはほとんど寝ているだけだ。 |
シミラン諸島1泊2日ツアーの軌跡。海上でカクン、となっている箇所は、シュノーケリングで停泊したポイントである。 |
夕方、カオラックのゲストハウスに戻りそこに1泊。翌朝から雨が降り出した。雨期の始まりだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿